インターネットIPv4アドレス枯渇論
NIKKEI NETによると、総務省はインターネットで使われているIPアドレスが2010年にも足りなくなる事態に対応するため、官民の対策会議を月内に立ち上げるそうです。この記事を受けて、IPアドレス不足をどのようにして解決すべきかが話題になっており、池田信夫氏のブログ でもこの件に触れられていて興味を持ちました。私も、この件について考えてみようと思います。
ニュース記事(NIKKEI NET):
「IPアドレス」枯渇問題、官民が対策会議
私にとっての池田信夫氏
池田信夫氏は、かつて、「IPv6は必要か」 と題した論文を山田肇氏と共に発表された方です。発表された当時、「インターネット」という言葉は、今以上に夢と希望の響きがあったと思います。そういったイケイケな時代を背景として、これからもインターネットが発展するにはIPv6の導入が必要だと叫ばれていました。ネットワーク関連の展示会であるINTEROP TOKYOでもIPv6関連の展示に力が注がれており、私も近い将来、IPv4がIPv6に置き換わるのかなと、なんとなく思っていました。
そういったIPv6万歳な時代に発表された本論文ですが、内容はIPv6の普及に疑問を投げかけたものでした。要約すると、現在主流のIPv4に対するIPv6の真のメリットと言えるのは、IPアドレス数が多いことぐらいだが、IPアドレス不足はNATなどの技術により緩和されており、未使用のIPアドレスを回収できれば、IPアドレス不足が問題になるのはまだ先のことである。むしろ、IPv4からIPv6に乗り換えに必要となるコストが大きく、政府の力で無理矢理押し進めてもろくなことにならない。といった主張でした。この主張は世の中の流れに逆らうものであり、驚きをもって迎えられました。
この論文では、多角的に理路整然と考察されており、説得力がありました。これまでは、なんとなく「これからはIPv6かな」と思っていた私ですが、この論文に出会ってから、IPv6は普及しない論者に転向しました。
池田信夫氏のブログ
池田信夫氏自身のブログで前記ニュースについて意見を述べられておりました。
リンク(池田信夫氏のブログ): IPアドレスは枯渇していない
前述の論文と主張は一貫しており、IPアドレス不足は、未使用のIPアドレスを回収することで解決できると述べられてます。特に巨大なアドレスブロックであるクラスAを所持してる組織が、オークションで未使用IPアドレスを再配分すれば解決できると述べられてます。
コメント欄を見ると、さらに情報が提示されています。
- IPv6推進論者である村井純氏も「v4は永遠に延命できる」と認めたらしい (本当?)
- IPアドレスを所持する組織から、所持アドレス数に比例した管理手数料を徴収することで不要なIPアドレスの返却を促する方法(IPアドレス税)は、既得権者の反対により、現実的には難しいらしい。(この手法は前述の論文で提案されていた)
- IPアドレスのブラックマーケットはすでに形成されているらしい
と、いろいろと新ネタが挙がっています。これまで集まったネタをもとに、前述の5年前の論文をアップデートして欲しいと思いました。それだけの価値があると思います。
ブログの感想
IPアドレス税のアイデアが否定されたのが残念です。なぜなら、IPアドレス市場を形成できたとしても、IPアドレス税抜きでは、すべての未使用なアドレスブロックが流通するとは思えないのです。IPアドレスの需要はこれから増えることはあっても、減ることは無いでしょう。つまり、金儲けしたいならば、未使用アドレスを手放さずに持ち続けて、値上がりを待つのが得策なのです。大昔、米屋が金儲けのために米の買い占めや売り惜しみをしたことを思い出します。もっとも、こちらは庶民の不満が爆発して「うちこわし」が起きたのですが...
したがって、IPアドレスを持ち続ける行為に対して、何らかのペナルティ(例えば、IPアドレス税)を与えないことには、IPアドレス市場メカニズムは有効に機能しないと思います。結局、「IPアドレス市場の形成」と「IPアドレス税の導入」の両方が必要だと思われます。「うちこわし」のごとく、既得権者の不満を押し切ってでも導入する必要があると思います。
ただし、この両方を導入したとしても問題があります。IPアドレスの価値をお金に換算している点です。お金をたくさん持っていない発展途上国だと、IPアドレスの取得の費用や、IPアドレス税の費用負担が重くなると思われるのです。インターネットの世界にも南北問題を持ち込むことになりかねないのです。
また、IPアドレス税の効果は小規模なアドレスブロックを持っている組織には効果が弱いと思われるます。例えば、税額を100円/(年・アドレス) とすると、1アドレスブロック所持するのにかかる費用は、クラスAだと約1600万円(100かける2の24乗)と大きいですが、クラスCだとたった25600円(100かける2の8乗)でたいした負担になりません。
私は、ここで一つの仮説を立てようと思います。「中小規模の(クラスAより小さな)固定IPアドレスブロックが既に割り当てられている組織に大量の未使用IPアドレスが存在する」です。池田信夫氏は、インターネット初期にクラスAを大量に取得した組織が、未使用アドレスを返納するとアドレス不足が解決すると述べているのとは対称的です。私がこの仮説を立てた理由は簡単で、総務省があと4年で足りなくなると述べてのに対して、一方で、池田氏が「アドレスの1割しかホストが存在しない」と述べていることです。この両論を成立しようとすると、既に割り当てられているアドレスのほとんどが使われていないと考えるしか無いのです。こうなる理由としては、IPアドレスの取得時におもいっきり余裕を見込んで取得していることと、次に述べる管理の問題が考えられます。
本当に必要なのはネットワーク管理の簡単化ではなかろうか
以前、私は小さなネットワークを管理していたことがあります。このとき、固定IPアドレスでいくらかの機器を管理していたのですが、機器の入れ替えなどをしているうちに管理しきれなくなりました。IPアドレスと機器の対応表の更新をさぼっているうちに、管理不能になり、どれが本当に未使用なIPアドレスなのかが分からなくなりました。一方、DHCP でアドレスを自動管理するとそんなことなく、効率的に割り当てられました。
これの前者と同じことが、世界中で起きているのではないかと思いました。要するに、真面目に管理すると、管理コスト(人的、金銭的)が大きいため、IPアドレスの割り当てやネットワークの設定のメンテナンスなどの管理業務を手抜きし、そのためにじゃばじゃばとアドレスを無駄遣いするような事態になっているのではないかと思われました。
この場合、ちょっとやそっとのアドレス税がかけられたとしても、未使用アドレスを返納せずに税を払ってしまうと思います。失われた秩序を取り戻す作業は大変であり、リスキーだと思われるからです。それならば、そんなことを言えなくなるぐらいにIPアドレス税額をあげろという話になるかもしれません。しかし、そういう力技に頼るよりも管理を簡単化することの方が建設的でないかと思います。例えば、DHCPみたいに、管理情報の一元化や、管理の自動化の仕組みがあればと思います。管理の簡単化は、もしも世間がIPv6に移行できたとしても取り組む価値のあると思います。広大なアドレス空間を与えられたとしても無駄遣いをすれは、同じことだからです。実は、この管理コスト/リスクの問題が一番本質的な部分だと思うのですが、いまのところIPアドレスの効率利用の文脈では、こういった話は聞きません。
こんな感じで、IPv4をだましだまし使い続けるのも問題がありそうなのですが、そもそも、IPv6にスムーズに移行出来ていたらこんな問題は起こらなかったはずです。IPv6がIPv4と互換性が無いことが移行できなかった最大の理由だと、いろいろなところで言われてます。本当に解決したい問題はIPアドレス不足だけなのに、同時にいろいろなことをしようとして、互換性を放棄してしまったのだと思います。イケイケな時代背景もこれを後押ししたのだと思います。
今回は、池田信夫氏のブログを引き合いに出しましたが、他にも、Janogメーリングリスト や、スラッシュドット ジャパンでも議論されているようです。
私の考える(思いつき)IPv6
不肖私めがIPv4からスムーズに移行できるIPv6を考えてみます。
IPv6は、IPv4をオブジェクト指向でいう「継承」により拡張することを基本的なコンセプトとします。拡張するのはアドレスの長さのみでそれ以外は基本的に拡張しません。継承による拡張という考え方は、オブジェクト指向技術の世界ではありふれた考え方なので理解されやすい思います。継承を用いることで以下のような特徴を持ちます。
- IPv6装置では、従来のIPv4パケットを従来のIPv4の方式で処理します(上位互換性)。
- IPv6パケットのフォーマットは、従来のIPv4装置からはIPv4パケットとみなされるように設計します(下位互換性)。
- 従来のIPv4で十分な機能は、IPv4の仕組みをそのまま使い、IPv4で不十分な機能のみ、新規で拡張します。(車輪の再発明の防止)
IPアドレスをIPv4の32bitにさらに96bit追加して、128bitに拡張するものとします。
この128bitのアドレスは、従来のIPv4アドレスに相当する上位32bit部と、新たに拡張された下位の96bitから構成されます。つまり、従来のIPv4のホストアドレス(32bit)は、新アドレス体系ではネットワークアドレスになります。
IPv6ヘッダは、基本的にIPv4ヘッダの構造を引き継ぎます。IPv4ヘッダのソースアドレスと、宛先アドレスのフィールドには、それぞれのアドレスの上位32bitがそれぞれ格納されます。残りの96bitは、IPv4オプションフィールドに新規のオプションとしてそれぞれ格納されます。IPv4では、アドレスは、ネットワークアドレスとホストアドレスの2層構造でした。IPv6ではこれが4層構造になります。上位32ビットがネットワークアドレス1とネットワークアドレス2の2層構造に、下位96ビットはネットワークアドレス3とホストアドレスの2層構造で、併せて4層です。
このパケットを、従来のIPv4ルータでは、このアドレス上位32ビットのについてルーティングします。IPv4ルータではオプションフィールドに書かれた下位96ビットのアドレスは、未知のオプションとして扱われ無視されます。したがって、別途下位96bitについてルーティングする仕組み(ルーティングプロトコル)やルータ(IPv6)が必要になります。ネットワークが階層構造で設計することとします。つまり、ホストとIPv6ルータでサブネットを構成し、サブネットの代表IPv6ルータをIPv4ルータで接続する構造です。すると、上位32ビット(上位2層)のルーティングは従来のIPv4ルータで行い、下位96ビット(下位2層)についてのルーティングは新規設計のルーティングプロトコルを搭載したIPv6ルータで行うことになります。これにより、IPv6パケットは、[ソース] → [IPv6ルータ ]* → [IPv4ルータ]* → [IPv6ルータ]* → [宛先] といった経路でルーティングされます。
※ IPv4ルータからは、IPv6ルータがホストに見えるところがポイントです。
ホストで使われるソケットAPIも同じように継承の考え方で作られると便利です。IPv4を継承したIPv6ソケットを作成します。このソケット用にコードを一度書くだけで、IPv4とIPv6に同時に対応します。IPのバージョンの判定は、設定されたIPアドレスの形式で判断します。例えば、下位96bitがオール0ならばIPv4形式と見なし、そうでなければIPv6形式と見なします。これを使うと、それぞれのIPバージョンのソケットに対応したコードを作成する必要はなくなります。この考え方で作られたライブラリをあらかじめばらまいておくことで、潜在的にいつでもIPv6に対応可能なソフトを増やすことが出来るはずです。
実は、このアイデアですが、既存のIPネットワークにインパクトを与えないうコンセプトで、NATS と似てます。
アイデアを思いつくままに書いたので意味不明かもしれませんが、もしそうなら、ごめんなさい。また、このアイデアはかなり泥臭いですが、CPUの世界では、泥臭くて有名な86アーキテクチャが生き残っていることを考えると、良い線行っているのではと思ったりします。
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コメント
> 発展途上国だと、IPアドレスの取得や管理のための不要負担が重くなると思われるのです。インターネットの世界にも南北問題を持ち込むことになりかねないのです。
「効率よい資源配分(アロケーション)」と、「不公平を感じない再分配(ディストリビューション)」は区別しなければいけません。市場機構が解決するのは前者だけです。
そして、「独立した複数の政策目的を達成するには、同じ数の政策手段が必要」というのがティンバーゲンの定理です。1つの手段で解決しようなどと思ってはいけません。
「南北問題」を解決したいなら、裕福な国から貧乏な国へ所得を移転する(要するに何らかの形でお金を援助する)しかないでしょう。「どのくらい」というのは「皆がどのくらいだと公平と感じるか」という問題です。経済学でも工学でも答は出ません。
(なお、当たり前ですが効率が悪い仕組みを取ったからといって「南北問題」が解決するわけではありません。現在でも貧乏な国がインターネット接続するのは先進国より大変なことに違いはないでしょう。)
投稿: | 2007年6月15日 (金) 午後 01時15分
まあ、問題点があれば2の手3の手を繰り出すべきだと思います。1つの手段での解決にこだわる必要は無いと思います。しかし、できることならシンプルで筋の良い方法で目標を達成したいのが人情ではないでしょうか。
>「南北問題」を解決したいなら、裕福な国から貧乏な国へ所得を移転する(要するに何らかの形でお金を援助する)しかないでしょう。
IPアドレス版ODAですね。実際のODAで南北問題が解決しているかというと、そうでは無さそうです。南北問題をそもそも生じさせない手段を模索すべきだと思います。
おっしゃるとおり、既に格差は存在すると思いますが、それを更に広げるようなことはしたくないと思います。一度開いた格差を解消するのは難しいと思いますので。
ただし、現実的に良い代案が無ければ涙をのんで実行するしかないと思います。IPアドレス税の導入ですら現実的には難しいと思いますので。ましてや...
投稿: くまさん | 2007年6月16日 (土) 午前 12時14分